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2023.05.22連載:インタビュー【「起こし文」デザイナー 山岡進さん】

味わい深い下町の風情が漂う谷中。街にゆかりのある人々にインタビューするシリーズ企画、第3回は、谷中を拠点に活動するデザイナー・山岡進さんです。代表作の「起こし文(ぶみ)はがき」は、切り込みに従って折ると、まるでポップアップ絵本のように情景が立ち上がる絵はがき。日本の風景を題材にしたシリーズ「街並はがき」は、外国人観光客にも人気で、なかでも谷中をモチーフにした作品は、この街をよく知る山岡さんならではの視点で日常をいきいきと描いています。

 

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「街並はがき」シリーズ。谷中銀座商店街に通じる階段「夕やけだんだん」(左)と、かつて谷中に実在したお店がモデルの八百屋

 

山岡さんの「街並はがき」は、あらかじめ切り込みを入れ、加工を施した絵はがき。その切り込み部分を折ると、ポップアップ絵本のように絵が立ち上がる仕掛けになっています。設計から組み立てまで何度も試作をくり返し、完成には約3ヶ月かかるそう。平らな状態のまま切手を貼って郵送することができ、受け取った人に組み立てて楽しんでもらうこともできます。

 

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店の看板や陳列棚、公衆電話など、細かい部分にも加工が施されています

 

山岡さんは、1959年、隣町の根岸で生まれました。少年時代には、よく自転車で谷中に遊びに来ていたとか。「古い街並みが好きで、将来は谷中に住みたいと考えていました」と当時を振り返り、感慨深げにニッコリ。「街並はがき」に描かれている古きよき谷中の風景は、山岡さんの思い出がベースになっているのです。

 

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「街並はがき」のモチーフにもなった武藤商店の前で、地元愛を語る山岡さん

 

「古い建物はどんどんなくなっていくから、作品にすることでみんなの記憶に残すことができれば」と山岡さん。その想いが見る人に伝わり、想像を掻き立てます。絵の中には通行人や風に揺れる暖簾まで再現されていて、今にも動き出しそうな臨場感。楽しげな話し声も聞こえてきそうです。

 

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谷中の名風景の一つ、初音小路(左)は昭和の空気が色濃く残る横丁。また、昭和40年代の谷中銀座商店街のゲートはネオンで彩られていました

 

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週末には武藤商店の店頭に作品を並べ、山岡さん自身も店に立ちます

 

学生時代は建築家を目指していたという山岡さん。しかし、大学在学中に桑沢デザイン研究所を知り、一念発起して受験し直すことに。1982年、無事リビングデザイン科に入学し、積極的に学んだ後、グラフィックデザインの事務所に入社。数年後にはプロダクトデザイン事務所に移りましたが、仕事として商品の設計デザインをするかたわら、個人の作品作りもスタートしたそうです。

 

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谷中にあるパティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウの起こし文は、週末の武藤書店前で販売中。440円(税込)

 

1997年には独立し、いよいよフリーのデザイナー兼作家に。現在、日本各地の名所とコラボした「街並はがき」は、観光みやげとしても喜ばれています。題材は古いものに限らず、現存する中からも未来に残すべき名風景をチョイス。2008年、谷中にオープンしたパティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウを題材にした作品には、店内で働く店主夫妻も描かれています。

 

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「©『BLUE GIANT SUPREME』石塚真一/小学館」

 

コラボの幅は広く、なんと小学館の人気漫画雑誌『ビッグコミック』とも。連載中だったジャズ漫画「BLUE GIANT SUPREME」の新連載を記念し、綴じ込み付録をデザインしていました。山岡さんの設計図に合わせて作者の石塚真一さんが描き下ろし、互いに何度も微調整を重ねながら作り上げていったそう。そのやりとりこそ、まるでジャズのセッションのよう。

 

山岡さんの仕事場があるのは、谷中の路地裏にある住宅地。普段の散歩スポットなどお気に入りの場所を聞くと、「初めての人におすすめしているのは朝倉彫塑館」と教えてくれました。すいていれば、中庭を見ながらのんびりできるそう。「あとは、千駄木の須藤公園。高低差があってなかなか楽しめます」。
休日には、ぜひ谷中へ。谷中銀座商店街の武藤書店に立ち寄り、おみやげに「街並はがき」を購入すれば、後日、楽しかったひとときをより鮮明に思い返すことができるはず。

 

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山岡さんがフリーの作家として活動を始めた頃に製作した行灯。細かい細工に、思わず目を見張ります

 

山岡 進
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