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[第5回/最終回:人々の想い出に刻まれる場所として]
●上野のれん会会長 須賀 光一さん ●聞き手 佐藤 輝光(松坂屋上野店)
数多くの人が訪れ、それぞれの想い出を心に刻んでいる場所・上野。上野と歩んできたご自身の想い出と、上野の今後について、上野のれん会会長の須賀光一さんにお話を伺いました。
■山と共に
佐藤:のれん会、そして上野の今後について、どうお考えですか?
須賀:山の文化施設(上野の森美術館、国立科学博物館、国立西洋美術館、東京国立博物館、東京都美術館など)に加盟していただいて、この10年、のれん会として一緒に活動してきたことで、しっかりとコミュニケーションが取れる関係を築いてきたのは、嬉しいことです。山の有り難みをわかった上で、それを具体的なアクションとしてどう展開していくか。例えば、「半券をお持ちいただければ、サービスします」という方法があります。でも、もはや新しい試みではありません。スタンプラリーもあまり効果がない。そういうものにお客さんは新鮮味を感じません。これからはもっと違うかたちのイベントを考えていかなければならないでしょう。それが私たちの次の課題です。
鳥獣戯画京都高山寺の至宝
昨年、東京国立博物館で開催された「鳥獣戯画 京都高山寺の至宝」展示の時に、セブンイレブンで入場券とのれん会各店の食事券がセットになったチケットを販売しました。通常よりも200円から400円ほど、お得な設定になっていますが、「鳥獣戯画展」なので、お年寄りがわざわざコンビニエンスストアでチケットを購入するものかどうか、とちょっと疑問でした。みんなに話したら、「コンビニ?」と疑問視しながらも、浮世の義理で10店舗ほど参加してくれました。実際に蓋を開けてみたら、680枚売れました。さらにネットとチラシの認知経路を割合で見ると、ネットが80枚だったのに対し残り600枚はチラシ。8割が50代の女性だったので、アナログの方が強かったようですが、都内だけではなく、関東近郊からも足を運んでいただきました。要するに上野の山というのは、それだけ広範囲に人を集める力があるということです。春に「恐竜展」があり、ターゲットもファミリーと、コンビニとも親和性があるので、そこでも同じような試みをしようと考えています。
■子供たちへのメッセージと上野の思い出
黒門小学校
佐藤:自分自身のことでいうと、普段は博物館や美術館に滅多に行かないのに、海外旅行にいくと、必ず足を運ぶ。なんでしょう、あれは(笑)。上野動物園の土居園長にも、「動物園、最近行ってないでしょう?動物園は大人でも学べるんだよ。」といわれて、そうだよなと思いながら、近隣の文化施設にもっと知識を得られる場、体験できる場として、もっと足を向けるべきなだと思います。
須賀:黒門小学校の子供たちを、いろいろな文化施設の展示会に招待してもらうようにしていて、ピカソ展の時も、全校生徒を招待してもらえるように頼みました。そういうことを続けていくと、いつか上野からピカソが出るかもしれませんって(笑)。
上野ミュージアムウィーク2015 留学生イべント
毎年恒例の「上野ミュージアムウィーク(国際博物館の日記念事業)では、のれん会主催で留学生対象の感想文コンテストを行っています。入賞者には文化施設のフリーパス券を渡すのですが、中国の女性から「上野公園が私の庭になりました。留学生の身ではあまりお金に余裕はありませんが、少なくとも一月に一度は上野公園に来て、いろいろなものを観られるようになりました。」とお礼が来ました。嬉しいですよ。上野の子供たちにも、そういうふうになってほしいと思います。私にとっては上野というのは、おばあちゃんがご飯を食べようといって、いつも行かないようなお店に連れてもらえる、そういう楽しい場所でした。我が家は、元旦にお墓参りをする習慣があって、お年玉をもらったら、五条天神へ行って祝詞をあげてもらい、お寺さんに寄ってお墓参りをして、サーカスや水族館を観に行って、夕飯に美味しいものを食べて帰る。そういう楽しいことがセットになっていました。
佐藤:子供の頃の楽しい記憶が街の光景やその時の匂いに紐づいていて、何かの折にふとよみがえることがありますが、そういう想い出があると、何か嫌なことがあっても踏ん張れるたりするものですね。
須賀:上野というのが、一人でも多くの人の楽しい想い出や忘れがたい記憶に紐づいている、そういう場所になっていくといいですね。
(終わり)