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[第4回:商いとアート]
●上野のれん会会長(洋食黒船亭/アダムスキクヤ社長) 須賀 光一さん ●聞き手 佐藤 輝光(松坂屋上野店)
今も多くの老舗の店が軒を連ねる、上野の街。街の佇まいが変わっても、新しいものと古きものが共存する商いの街のありようについて、上野のれん会会長の須賀光一さん(洋食黒船亭/アダムスキクヤ社長)に伺いました。
■店の気概が残る街
佐藤:上野というのは、異文化が混在しているから廃れないのでしょうか。
須賀:画一化すると、どこかで息が詰まってきます。上野は自然発生的にできた街で、その中でも、山と池という自然、そこにある文化ゾーンの香り、それに加えて街の人間臭さといったものが上野の原点にあって、これらを生かしていくことが重要なのではないでしょうか。
佐藤:なかなかひと言では表現しづらい街ですよね。
のれん会のエリア
須賀:強いていうなら、“侘び寂び”のわかる街でしょうか。昔からそういう世界があって、例えば、大島紬というのはシルクですが、敢えて絹の素材感をキラっと光らせず、綿のように見せています。お店も、建物の構えはシンプルで素っ気なくても、ちょっとしたところに味わいがあったり、扱っている小物がおしゃれだったりとか、そういうところで魅せる。すべてが“侘び寂び”になってしまうと、能の世界のように枯れてしまいますが、どこかに華やかさを持たせる。できれば、それが本物ならば、尚いい。いやらしく見えないですからね。人間というのは理屈ではなく、本能の部分で見極めるものです。見た瞬間の感性で、“嫌だ・カッコ悪い“と判断する。店づくりもサービスも、そういうバランスをどう取るかがキモなんです。長年、上野で商いをしているある焼鳥屋さんには、クーラーがありません。ご主人は「俺の目の黒いうちは、絶対に(クーラーは)入れない」というんです。どうしてなのか尋ねると、「食べている時に、背中に不忍池を渡る風が吹いてくる。その時に美味しいと感じるのが、うちの店なんだよ」と。すごいでしょ。昔ながらの気概のある店というのは、たとえ古くても、今の設備じゃなくても、かっこいい。そういう店が上野には残っているんですよ。そこが上野の素敵なところで、そういった気概というのは大事にした方がいいと思いますね。
■ビジネスとアートマインド
佐藤:上野という街は、そういうお店が長く続いているんですね。
老舗、黒船亭にもこだわりが※
須賀:そういうお店こそ、長く続くのですよ。老舗といえば聞こえはいいですが、むずかしい時代ですから、胡坐をかいていて下手をすれば、店そのものがなくなってしまう。10年ひと昔といいますが、今は5年もしないで、お客さんのライフスタイルやニーズが変わる。そこでどうするか。私は基本的には店の理念は残して、形を変えていけばいいと思っています。商売というのは時代とともに変わっていくもの。でも、店の有りようは変わったとしても、根底に流れる理念、想いというものは変えるべきではないと思います。商いというのは、アートと同じ。そこに感動があれば、人は集まってきます。だから、どこかにアートマインドがないと、本当の商売というのはできません。ビジネスというのは、目に見えることを一つ一つきっちりやっていくことは大切ですが、そこに“何ゆえに”という理念や想いがないと、ただの作業になってしまいます。そうなると、そこに感動は生まれない。感動がなければ、ものは売れません。人間だけですよ、感動するのは。感動は涙を伴いますが、たとえばお金に執着している人間でも、オリンピックの試合を見て感動の涙を流す。一銭にもならなくても、人は感動するんです。それが人というものの特質です。だから、商いにも感動が必要なのです。「のれん会」の活動も同じです。アートマインドが重要だと思っています。(つづく)
※黒船亭経営コンセプトブックより
[第2回:上野のれん会誕生とその理念]
[第3回:輝く文化が集まる街・上野]
[第5回/最終回:人々の想い出に刻まれる場所として]