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上野エリアに近年、個性的な宿が増えてきました。地域密着で独自にご案内したり、近隣店舗の商品を取り入れたり、ちょっとした体験や交流ができたりと多彩です。上野エリアならではの、記憶に残る旅のひとときを提供する宿をご紹介します。
江戸時代に上野・寛永寺の子院が建ち、寺町が形成された谷中。当時の風情をそこかしこに残す人気観光地に、2021年5月、一風変わった宿泊施設がオープンしました。その名をYANAKA SOWといい、コンセプトは「住むと泊まるの間」。暮らすように旅をすることで、通常の観光客目線では見えない、谷中のふとした表情に気付くことができます。
YANAKA SOWの入口。柳の枝が風になびく様子が涼しげ
宿泊プランは、大きく分けて2通り。1泊から利用できる「STAY plan」は、公式サイトから直接予約できます。30日から365日まで長期滞在が可能な「LIVE plan」は、事前に料金の見積もりを出してもらえるので安心。客室はキッチン・家電付きで、長期出張はもちろん、移住検討者が谷中での生活を体験するために利用することもあるそうです。
縁側では地元の人たちがお祭りなどの催しを行い、宿泊客と交流する場面も
YANAKA SOWは品のある寺町にあり、周辺環境は静か。暖簾をくぐり、石畳の玄関アプローチを進むとエントランスに辿り着きます。出迎えてくれるのは、浮世絵をモチーフにした大きなステンシルアート。その浮世絵は江戸時代の絵師・鈴木春信が描いた「笠森お仙」で、お仙はかつて谷中にあった茶屋の看板娘。今で言うアイドル的存在です。
チェックインは、エントランスのタブレットを自ら操作します。ネット予約した際に発行された番号を入力すると、ロビーへ続くドアがオープン! 一見ドアだとわかりづらく少し驚きますが、「寺町にある隠れ部屋」をイメージしたとか。まるで暗号キーを使って隠し扉を開けるようで、ちょっとワクワクします。
エントランス部分。ミニマムなデザインの空間に、ビビッドなステンシルアートが映えます
YANAKA DIGGERの永山さん。「谷中の研究員」をイメージしたドクターコートがユニフォーム
ロビーではスタッフがお迎え。シックにまとめたミニマムな空間で、「dig through culture」とつづられたネオンサインが訴えかけてきます。実は、YANAKA SOWには谷中の町の案内人=YANAKA DIGGERがいて、地元の人が好んで通うような、ガイドブックには載らないスポットも紹介してくれます。「コース料理に見立てて散策ルートを組むのはいかがでしょう? 例えば、前菜は酒屋の角打ちで、越後屋本店。メインは町中華の一寸亭でチャーハン。フルコースの〆は朝日湯」とYANAKA DIGGERの永山慶志郎さん。
周辺マップにYANAKA DIGGERのおすすめや、宿泊客が気に入ったスポットを集約したパネル
「第二の自宅」もYANAKA SOWの重要なコンセプト。ロビーのお座敷に上がって散策ルートを相談していると、いつの間にかくつろいだ気分に。「友達の家に遊びに来た感覚になってくれるとうれしいです」と言われ、ますますリラックス。スタッフには谷中在住の人も複数いて、リアルな情報を入手できます。
「禅と仏教」「東京ストリート」「他者とのつながりと考える」など、客室のテーマを考える下敷きになった13冊
ロビーの書架には印象深い表紙がずらり。13冊の本が、説明文と一緒に並べられています。選書を担当しているのは、ブック・ディレクターとして知られる幅允孝(よしたか)さん。これらはそれぞれ、「街を読み解く」「東京を食べる」「音楽を掘る」など、全13室ある客室のテーマに沿った一冊になっています。
ダブルベットが並ぶ「PREMIUM "WA" TWIN -S- 」。畳に布団を敷けば最大6名宿泊可能
「PREMIUM "WA" TWIN -S- 」。ベッドと反対側に畳と床の間があります
会話が盛り上がったところで、いよいよ客室へ。「禅と仏教」がテーマの「PREMIUM "WA" TWIN -S- 」には、足を伸ばして座れる畳スペースがあります。散策から帰ってきたら、商店街で入手したお酒や食べ物など戦利品をちゃぶ台に広げて、2次会を開くのもよさそう。キッチンには食器やカトラリー、調理道具も用意されているので、材料を持ち寄り、みんなで料理することもできます。
ちゃんとしたキッチンと大きな冷蔵庫があるので、長期滞在するのに便利
空いた時間に洋服をランドリーコーナーで洗濯。乾燥まで一気にしてくれるドラム式洗濯機を、宿泊客なら無料で使えます。洗剤も自動投入されるので持参する必要がありません。これは長期滞在する人や、最小限の荷物で旅をするミニマリストにもうれしいポイント。
傍らには、今では珍しいカセットテープとラジカセも。カセットテープには音楽が録音されていて、自由に聴くことができます。初めて触る人にとっては、戸惑いながら操作するのも一つの体験。少しこもった柔らかい音色が、洗濯タイムを思い出深い旅のワンシーンに演出してくれます。
ポップなネオンサインは、撮影スポットとしても人気
谷中よみせ通りの青鶴茶舗がYANAKA SOWのためにセレクトした日本茶や、やなか珈琲によるオリジナルブレンドを自由に飲めます
ちなみに、CDやデータではなくカセットテープを選んだのには理由が。永山さん曰く「YANAKA SOWの"SOW"は、住むと泊まるの間を表す"荘"、町に寄り"添う"、地域の"層"を深掘る、という3つの意味が込められています。歴史が幾重にも重なり、目に見えない層を成している谷中は、音源を上書きして録音するカセットテープと似ているんです」。カセットテープを聞きながらお茶を飲み、洗濯が終わるのを待っているこのひとときも、谷中の歴史が織り成す層の一部になっていくのかと想像すると、ジーンと心が熱くなります。
ロビーの壁面には、谷中の歴史を綴ったアートも。谷中の土を混ぜて作ったステンシルアート
ロビーでの楽しみ方はまだまだたくさん。例えば、オリジナルのポストカードで手紙を書くことです。館内にはポストがあり、投函口は「大切な人への手紙」「次の旅人への手紙」「YOUR DIG SPOTs」の3つ。目的に合わせて、好きなところに投函します。
ポストカードに宛先を書き入れ、「大切な人への手紙」に投函すれば、スタッフがYANAKA SOWの記念スタンプを押して郵便局に持っていってくれます。「次の旅人への手紙」に投函すればロビーのファイルに綴じられ、次に訪れた旅人が閲覧。谷中を散策して見つけたスポットを書いて「YOUR DIG SPOTs」に投函すれば、それがパネルのMAPに反映される仕組み。自分の足跡が見知らぬ人の旅路につながっていくようで、なんだか興味深い。
YANAKA SOWのオリジナルポストカード。これにメッセージを書いてポストに投函します
YANAKA SOWは、オーナーである積水ハウス不動産東京(株)が初のホテル事業を手掛け、設計・施工は積水ハウス(株)、世界最大級の旅行コミュニティプラットフォームのAirbnbと、ブランディングや地域活性プロジェクトを得意とするオレンジ・アンド・パートナーズによる共同プロデュース。落ち着きのある住み心地を提供し、谷中の日常を取り入れた多彩な旅の魅力を提案してくれます。
町並みから寺町の風情と色気が感じられ、商店街には素朴さも漂う谷中。この街ならではのミックスカルチャーを YANAKA SOW を通して味わってみませんか。
出張やワーケーションで利用する人には、パソコン作業に向いているテーブルを置いた部屋も人気
YANAKA SOW
住所 東京都台東区谷中5-2-14
YANAKA DIGGERの在席日 月~土曜15:00~18:00
1泊 15,000円~
https://sowhotel.jp/room/(外部サイトへリンクします)