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2022.08.03東京都美術館「ボストン美術館展 芸術×力」内覧会レポート

権力者たちと芸術との関係を見つめ直す展覧会、「ボストン美術館展 芸術×力」が東京都美術館で開幕しました。どんな作品が見られるのか、注目の作品を交えて内覧会をレポートします。

 

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増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801) ボストン美術館蔵

 

この展覧会のもともとの開催予定は2020年。けれども、新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止になっていました。2年後しにようやく開催となったものです。

 

アメリカにあるボストン美術館は、約10万点の日本美術コレクションをはじめ50万点以上もの作品を有する世界有数の大規模美術館です。この展覧会では、日本美術のほか、様々な文化に由来する約60点が展示されています。展示作品の半数以上が日本初公開の作品だそう。

 

 

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ロベール・ルフェーヴルと工房 《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》1812年 ボストン美術館蔵

 

展覧会は5章構成です。第1章の「姿を見せる、力を示す」では、権力者の力を誇示するために制作された作品がならびます。《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》もその一つ。威風堂々としているナポレオンはマントを羽織り、月桂樹の冠をかぶっています。

服やポーズ、周囲に描かれた調度品などで権威が表されています。

 

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《ホルス神のレリーフ》 エジプト(エル・リシュト、センウセレト1世埋葬殿出土)、中王国、第12王朝、センウセレト1世治世時、紀元前1971-紀元前1926年 ボストン美術館蔵

 

権威を示す手法は地域によって大きく変わります。ハヤブサやハヤブサの頭部を持った男性の姿のホルス神は、エジプトの最も重要な神の一人。そして、現世に生きるエジプト王はホルスの化身とされていました。カイロから50kmほど離れた場所にあるピラミッド複合体で、この《ホルス神のレリーフ》は見つかりました。

 

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《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分) 鎌倉時代、13世紀後半 ボストン美術館蔵

 

 

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《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分) 鎌倉時代、13世紀後半 ボストン美術館蔵

 

平治の乱を描いた絵巻物《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は、この展覧会の目玉作品の一つ。平安時代末期に起こった平治の乱は、上皇と天皇の対立から巻き起こったもので、この作品はその模様を描いたもの。ダイナミックに描かれた絵巻は、日本に残されていれば国宝に指定されていただろうと言われるほどの傑作です。注目点は、乱で重要な役割を担う後白河院の姿が画面には一切登場しないこと。日本では、天皇や上皇はあからさまには描かないという慣習があるのです。権力者の姿を威風堂々と描くヨーロッパとは異なる点です。

 

権力者たちと宗教美術とのかかわりに焦点を当てたのが第2章の「聖なる世界」です。
地上の統治者たちは、しばしば「神の代理人」としての役割を担う事もありました。また、宗教的な儀式を行うことや、その地の宗教の支援を行う事も。

 

ブオナッコルソの《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》は、金箔をふんだんに使った至高の美。照度を落とした展示室でもまばゆく光り輝く祭壇画です。

 

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ニッコロ・ディ・ブオナッコルソ《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者聖ヨハネ、四天使》1380年頃 ボストン美術館蔵

 

ドミニコ会を創設した修道士聖ドミニクスを描いた《祈る聖ドミニクス》はエル・グレコの作品。ひざまずき両手を組んだドラマティックな構図で聖ドミニクスの敬虔(けいさん)さが描かれています。

 

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エル・グレコ(ドメニコス・テオトコプーロス)《祈る聖ドミニクス》1605年頃 ボストン美術館蔵

 

平安時代に制作された《大日如来坐像》は、藤原氏をはじめとした権力者たちに広く受け入れられていた仏師、定朝(じょうちょう)の洗練された美の様式を踏襲したもの。都の権力者たちの好むものを作ることで、権威が表されていたのです。

 

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《大日如来坐像》平安時代、長治2年(1105) ボストン美術館蔵

 

統治者たちの暮らしぶりが垣間見える絵画や宝飾品などを紹介するのが、続く第3章「宮廷のくらし」です。

 

パリにあるパレ=ロワイヤルとして現存する宮殿の大階段が舞台の作品《灰色の枢機卿(すうききょう)》は、フランス王国の力関係がドラマティックな構図で描かれています。画面にはカラフルな服を身にまとい、うやうやしくお辞儀をする貴族たちと修道士は気にもとめず読書をしている修道士がいます。じつは、修道士は、当時フランスの大権力者であったリシュリュー枢機卿のブレーンの一人。華やかな服と質素な服、大勢と一人、左と右などさまざまな対比構造が見られます。

 

 

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ジャン=レオン・ジェローム《灰色の枢機卿》1873年 ボストン美術館蔵

 

《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》は、統治者であるサングラーム・シングが郊外の宮殿を訪れたときの様子が描かれたもの。3人の侍女と妻を従えた画面中央のサングラーム・シングや、屋上から広大な領土を眺めるサングラーム・シングの様子から、彼に権威が集まっていることがわかります。

 

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《モンスーンを楽しむマハーラージャ、サングラーム・シング》インド北部(メーワール、ラージャスターン地方)、ムガル帝国時代、1720-1725年頃 ボストン美術館蔵

 

第4章「貢ぐ、与える」では、権力者たちによる贈答品、あるいは権力者への貢物などを紹介しています。統治者は、ときに他の統治者や家臣に贈り物をしていました。

 

《韃靼人朝貢(だったんじんちょうこう)図屏風》は、韃靼人(モンゴル系騎馬民族)の一行が、位の高い人物に謁見するために、貢物を持って向かう様子が描かれています。狩野永徳が描いたと伝えられています。この画題は中国の皇帝に謁見するために様々な民族が貢物を持って向かう「王会図」という画題にならったもの。

 

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伝 狩野永徳《韃靼人朝貢図屏風》桃山時代、16世紀後半 ボストン美術館蔵

 

ピカピカに光る《水差しと水盤》はイングランドの女王、エリザベス1世への贈り物、あるいは女王からの贈り物であったと考えられているもの。水差しと水盤の両方に歴代国王の略系図が彫り込まれ、水差しにはさら旧約聖書の物語も表されています。

 

 

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逆Lの印の製作者、MにPを重ねたモノグラムの金工師《水差しと水盤》1567−68年 ボストン美術館蔵

 

そして最終章「たしなむ、はぐくむ」では、芸術家のパトロンとしての権力者に焦点を当てていきます。《吉備大臣入唐絵巻》は、全期を通して4巻揃って展示される本展のもう一つの目玉作品。奈良時代を代表する学者で官僚、遣唐使だった吉備真備(きびのまきび)と、唐で亡くなったあと鬼に姿を変えた阿倍仲麻呂との物語が描かれています。主人公の吉備真備や阿倍仲麻呂の姿が、じつはとてもかわいらしいのです。

 

 

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《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末 ボストン美術館蔵

 

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《吉備大臣入唐絵巻》(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末 ボストン美術館蔵

 

また、増山雪斎(ましやませっさい)の《孔雀図》は、ボストンの地に渡ってからは日本初公開となる作品。本展のために修復されました。鳥の羽の精緻な表現に注目です。

 

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増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801) ボストン美術館蔵

 

芸術と密接に関わり合っている「力」。そして、その力の形は多様です。その関わり方を意識しながら鑑賞できる展覧会でした。

 

ちなみに、こちらの展覧会もオリジナルグッズが豊富。まずはGraniphによる吉備真備&阿倍仲麻呂Tシャツ。

 

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「グラニフTシャツ 吉備大臣入唐絵巻Tシャツ(sumikuro)」2,500円(税込)

 

展示作品をかわいらしくデフォルメしたグッズなども。

 

 

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「トートバッグ」(2種)各1,650円(税込)

 

楽しいグッズが盛りだくさん。この夏、見逃せない展覧会です。

 

ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)
会期 2022年7月23日(土)~10月2日(月) ※会期等は変更になる場合があります
開室時間 9:30~17:30、金は9:30~20:00 ※入場は閉室時刻の30分前まで
休室日 月曜、9月20日 ※ただし8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、9月19日(月・祝)、9月26日は開室
会場 東京都美術館 企画展示室
観覧料(税込) 一般2,000円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,400円、高校生以下無料
※本展は日時指定予約制。予約枠に空きがある場合、東京都美術館のチケットカウンターで当日券購入可能。詳細は下記展覧会公式サイトをご確認ください。
https://www.ntv.co.jp/boston2022/(外部サイトへリンクします)
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)

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