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2023.07.21国立西洋美術館「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」内覧会レポート

 

スペインの文化やイメージが、どのように形成され、流布されていったのか、版画作品を通して辿っていく展覧会「スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた」が、国立西洋美術館で開催されています。その内覧会をレポートしました。

 

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展示風景より

ラモン・サガス《「アニス・デル・モノ」のポスター》1898年 国立西洋美術館蔵

 

世界中から観光客が訪れる国、スペイン。けれども、かつては辺境の地と考えられている国でした。スペインがヨーロッパの先進国に「発見」され、エキゾチックな魅力を持つ国となっていったのは実は19世紀以降のこと。この展覧会は、そんなスペインのイメージがどのように変わっていったのかを、約240点の版画作品を通して6章構成で探っていくものです。

 

第1章「黄金世紀への照射:ドン・キホーテとベラスケス」は、スペインを代表する作家セルバンテス、そしてスペイン絵画の巨匠のひとり、ベラスケスにスポットライトを当てます。

 

17世紀初頭に発表されたセルバンテスの小説『ドン・キホーテ』は、スペインのみならず、ヨーロッパ全体で人気を博し、さまざまな画家たちが挿絵を描きました。時代錯誤の騎士道精神を追求するドン・キホーテの姿は当初はドタバタ喜劇として描かれていましたが、時代が進むに連れてそのイメージは変容。現在では、理想を追い求める孤高の存在として考えられるようになっています。

 

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展示風景より

 

また、18世紀後半から19世紀のスペインでは、17世紀の宮廷画家、ベラスケスの再評価の動きが見られました。ゴヤはベラスケス油彩画作品を模写し、版画を制作しています。

 

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(左)フランシスコ・デ・ゴヤ《王妃イザベル・デ・ボルボン騎馬像騎馬像(ベラスケスに基づく)》1778年 国立西洋美術館蔵
(右)フランシスコ・デ・ゴヤ《バルタサール・カルロス王太子騎馬像(ベラスケスに基づく)》1778年 国立西洋美術館蔵

 

第2章「スペインの『発見』」は、かつては辺境の地とされていたスペインが、先進的なヨーロッパ諸国から「発見」された過程を追います。ナポレオンの侵略やスペイン独立戦争以降、ヨーロッパの人々はイスラム様式に基づいた建築物や、独特の衣装、踊り、音楽を持つスペインに急速に惹かれるようになり、文学や音楽、そして絵画などでスペインがモチーフに取り上げられるようになりました。

 

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(左)E・ポール・シャンセー《サラゴサ》 1930年代 サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)
(右)マリアーノ・フォルトゥーニ・マドラソ《グラナダ、ダロ川》 国立西洋美術館蔵

 

 

また、アンダルシアの民族舞踊「フラメンコ」や、ビゼーによるオペラ「カルメン」などを通して、ヨーロッパの人たちはスペイン=エキゾチックな国というイメージを固めていくのです。

 

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(左)ジュール・ドランシー《たばこ「ジタン」のポスター(フランス専売公社)》たばこと塩の博物館
(右)ジュゼップ・モレイ《スペイン》1948年頃 サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)[展示期間:7/4~8/6]

 

第3章「闘牛、生と死の祭典」は、スペインの文化のなかでも象徴的な「闘牛」に焦点を当てたものです。ゴヤやピカソなど、画家たちは闘牛をモチーフに数多くの作品を発表しています。

 

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(左)フランシスコ・デ・ゴヤ〈闘牛技〉11番 《英雄エル・シッド、別の牡牛を角で突く》1816年
(中央上)フランシスコ・デ・ゴヤ〈闘牛技〉20番 《マドリードの闘牛場でフアニート・アピニャーニが見せた敏捷さと大胆さ》1816年
(中央下)フランシスコ・デ・ゴヤ〈闘牛技〉31番 《炎のバンデリーリャ》1816年
(右)フランシスコ・デ・ゴヤ〈闘牛技〉21番 《マドリードの闘牛場の無蓋席で起こった悲劇とトレホーン市長の死》1816年
いずれも国立西洋美術館蔵

 

第4章は「19世紀カタルーニャにおける革新」。スペイン第二の都市、バルセロナがあるカタルーニャ地方はスペインでいち早く産業革命が到達し、豊かな市民をパトロンとする新しい芸術文化が花開きました。この章ではカタルーニャ出身のマリアーノ・フォルトゥーニの作品のほか、カタルーニャで制作されたポスターなどを展示します。

 

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展示風景より
ラモン・サガス《「アニス・デル・モノ」のポスター》1898年 国立西洋美術館蔵

 

第5章「ゴヤを超えて:20世紀スペイン美術の水脈を探る」では、スペイン人芸術家による、自分たちのアイデンティティに基づいた作品を紹介します。植民地を失い、近代化に遅れたスペインは、自国の伝統や歴史を改めて振り返る動きが強まりました。また、スペイン内戦も勃発。ピカソやミロたちは芸術を持ってファシズムと戦います。

 

そして、最終章となる第6章「日本とスペイン:20世紀スペイン版画の需要」では、ピカソやミロ、ダリのほか、日本の現代美術にも大きな影響を与えたアントニ・タピエスらを紹介します。こちらはぜひ、美術館で実際の作品をご覧ください。

 

展覧会を堪能したらミュージアムショップへどうぞ。今回の展覧会にまつわるスペインが揃っています。スペインの焼き菓子セットは、ポルポロンをはじめとするスペインの伝統的な焼き菓子が4種類入ったセット。包み紙もかわいらしく、ギフトにもおすすめです。

 

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スペイン焼菓子セット1,432円(税込)

 

展覧会をひととおり回ると、スペインという国のイメージの変遷だけではなく、豊かな文化や暮らし、そして歴史を知ることができる、非常に充実した展覧会です。この夏、ぜひ足を運んでみてください。

 

スペインのイメージ:版画を通じて写し伝わるすがた
会期 2023年7月4日(金)~9月3日(日)
開館時間 9:30~17:30(毎週金・土曜9:30~20:00)
※いずれも入場は閉館30分前まで
会場 国立西洋美術館 企画展示室
休館日 月曜 ※ただし、8/14(月)は開館
料金(税込) 一般1,700円、大学生1,300円、高校生以下無料
https://www.nmwa.go.jp/(外部サイトへリンクします)
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)

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