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上野の魅力をモノづくりの側面から知るべく、ファッションディレクターとして活躍する黒島美紀子さんと一緒に、台東区のモノづくりに深く精通する3名の方にお話を伺いに行きました。
2回目は、台東デザイナーズビレッジ村長(インキュベーションマネージャー)であり、株式会社ソーシャルデザイン研究所の代表取締役でもある鈴木 淳さんにお話を伺いに行ってきました。
<黒島さん>こんにちは、よろしくお願い申し上げます。
<鈴木さん>こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。
<黒島さん>鈴木村長のお仕事はここ台東デザイナーズビレッジのインキュベーションマネジャーでいらっしゃいますね。
<鈴木さん>はい。ここデザビレは2004年に台東区によって設立された“創業支援施設”です。私は設立時から、入居クリエイターのアドバイスや施設のソフト面の運営を受託しています。設立した当時は全国的に“創業支援施設”がつくられた時期でしたが、ファッション系クリエイターに特化した施設はデザビレが初めてでした。クリエイターとはいっても“コンテンツやデザイン系”と“モノづくり系”と大きく2つにわけられますが、ここは後者の自分の手で商品をつくっている方々を育てる場所です。手づくり作家だった人を“経営者のヒナ”に育て、一つひとつつくっていた“作品”を“商品”へと変えていく仕組みをつくるお手伝いをしています。
<黒島さん>お仕事の範囲が広そうですね・・・
<鈴木さん>はい、まず、ここにいるクリエイターたちの業種が広範囲です。お洋服のデザイナーもいれば、バッグやシューズ、アクセサリーをつくる者などもいます。また、アドバイス内容も、事業計画、ブランドコンセプト、販促、生産、経理、知的財産まで多岐に渡っています。
セミナーや、産地や工場の見学会などのデザビレとしてまとまった研修はありますが、基本的には個別の相談が中心です。
例えば“こういうモノをつくりたいのですが工場がない”といった質問があったとしたら、工場を紹介するのではなくて、工場の探し方を教える。ちょっとした差ですが、これが大事で、最終的には自分で考え、行動する能力を持っていただかないと、ここから卒業した時自立できません。
<黒島さん>大変大事だと感じます。そのほうが数段クリエイターさんたちのためになりますね。
<鈴木さん>おかげさまで、このデザビレができて14年目になりますが、かなり活躍している卒業生が増えました。嬉しいことです。
<黒島さん>この周りは下町の静かな住宅地といった感じですが、デザビレは“何をしている場所なんだ??あそこは?”と思われたりしてませんか(笑)?
<鈴木さん>そういうこともあるかと思って、地元の方たちに対して、学園祭のようなお披露目の機会として「施設公開」を毎年実施していました。この施設公開に地域のメーカーや職人さん達を巻き込んでいったのがモノマチの始まりです。
<黒島さん>蔵前から御徒町にかけてのエリア全般をカバーして区外集客が7割以上といわれている“モノマチ”ですね。全国的にかなりの認知度になってますよね。
<鈴木さん>もちろん最初は失敗もありました。モノマチのスタートは2011年の東日本大震災の年です。
モノマチでは、佐竹商店街でクリエイターがテーブルを出して商品を売るモノづくり市(現在はクリエイターズマーケット)を開催したり、企業や店舗が、実演やワークショップ、オリジナル商品の制作など、様々な表現でモノづくりの魅力を伝えてくれました。デザビレの施設になった旧小島小学校の卒業生の社長たちや、地域に定着してお店を開いているデザビレ卒業生たちが最初のメンバーです。
口コミで近所に声をかけ参加者を集め、ボランティアを募り、始めは半信半疑だった人たちも一体となって、結果、たくさんの人がこの地域におしかけ、「こんなに多くの人を見たことがない」、というくらい盛り上げることができたのです。
実は初回モノマチ開催の裏には、我々の中にどうしても達成したいミッションがありました。
<黒島さん>むむむ?なんですか?聞かせてください。
<鈴木さん>大きな震災はあったものの、この下町エリアには翌年2012年にスカイツリーが開業することが決まっていました。
我々はスカイツリーの開業で大勢の人がこの東東京を訪れる、そのときまでに、この“カチクラ”というエリアを一般に浸透させなくては、スカイツリーと浅草にしか人が来てくれない。この地域を盛り上げるためには、それまでに“カチクラ”を代表するイベントを敢行して知名度を高める必要があったのです。
<黒島さん>“カチクラ”って響きがいいですよね!とても。
<鈴木さん>ありがとうございます。実はこの言葉、雑誌の東京ウォーカーとこのエリアのモノづくりを特集する時にできました。一言でエリアを指す名称を決めたい、編集部では“上野”と“浅草”の間だから“UA(ゆーえー)”や“裏浅草”なんていうアイデアもあったのですが、私は上野や浅草に対抗する地域にしたかったので、御徒町の“カチ”と蔵前の“クラ”に挟まれた地域だから“カチクラ”と名付けました。
<黒島さん>“カチクラ”の方がずっといいじゃないですか!よかった(笑)!
<鈴木さん>モノマチは、企業、クリエイター、そして地元の人たちとどんどん参加者が広がって規模が大きくなり、私は運営の中核から外れ、地域の人たちが自主的に運営する地域イベントに育ってきました。今では先ほどおっしゃっていただいたように、全国からも“モノづくり”を可視化できたイベントとしてみなさんから問い合わせいただくまでになりました。
<黒島さん>私も何度かモノマチイベントに遊びに来ていますが、モノづくりのクリエイターさんはもとより、地元の美味しいビストロまで参加しているのでびっくりしました。
何より参加する企業や店舗が多いので見ごたえ、歩きごたえがあります。
<鈴木さん>このイベントをやってきて、本当によかったと思うのは、地域での交流を実感できたこと。年齢や職業、地元の人か外部の人か、といったそういう垣根を超えて、みんなが盛り上げようと一緒に協議し、一緒に動いてつくりあげる姿がありました。
ボランティアで参加してくださっていた地元の主婦の方たちに“自分の街にこういうイベントがあって誇りに思う”といっていただけた時は本当に良かったと実感しました。
今はモノマチ協会ができて、地元の人たちだけでしっかり運営しています。実際、タレントとかの招聘もなくて、地元の企業がメインでここまで盛り上がるまち歩きイベントは全国を見ても他に類を見ないそうです。
<黒島さん>素晴らしいですね。もともとも“モノづくり”というインフラがあったけれど、エリアや職種でみなバラバラだった。それがこのイベントを通じて一つになって、まさに地域活性化の良い例だと思います。
温かみのある下町文化と、進化するモノづくり文化、支える人情。ぜひこの絶妙なバランスを守っていくお手伝いを、我々もさせていただきたいと思います。
これからもよろしくお願い申し上げます。
台東デザイナーズビレッジ インキュベーションマネジャー
株式会社ソーシャルデザイン研究所 代表取締役 鈴木 淳さん