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[第5回:アメ横とともに]
●国立西洋美術館世界遺産登録たいとう推進協議会 会長 石山 和幸さん ●聞き手 佐藤 輝光(松坂屋上野店)
最終回となる今回は、アメ横と共に生き、暮らしてきたアメ横歴56年の石山会長に、アメ横の魅力とエネルギー、未来について語っていただきました。
画像左:2015年に世界遺産推薦決定
画像右:国立西洋美術館馬渕館長(左)と服部台東区長(中央)と(2015年)
■上野は変わるのか?
佐藤:国立西洋美術館の世界遺産登録を機に、上野は変わっていくと思われますか。
石山:上野に一つのシンボルができたわけですから、これから街の人たちがそれを生かすように、いろいろ活動してもらいたいと思っています。私はもう引退です。(笑)。
佐藤:街を盛り上げたいという石山会長の思いは、みんなで受け継いでいかなければならないと感じていると思います。
アメ横センタービル横断幕(2008年)
石山:世界遺産になったから、こそのことであってね。私自身は、アメ横で商売をさせてもらったという恩義がありますから。北海道出身で、東京に出てきてここアメ横以外は知りません。アメ横一筋56年。私の生活の場ですし、ここから出ていこうと思ったことは一度もありません。珍味屋のアルバイトからスタートして、勤めて、それから自分で商売を始めたんです。私の生活、人生はすべてアメ横です。本来、街づくりというのは、「よそ者、若者、ばか者」といって、そういう人間が引っ張っていくことが多い。よそから来て、何かしようという人が、街を変えていく。若いエネルギー、何かやってやろうという熱がないと、なかなかできません。何かに集中して成し遂げるような人が一人でもいないと、街づくりというのは難しい。一生懸命にやるのにはエネルギーが必要で、大切なのは情熱なんです。
街の熱意を伝えるため、度々大使館を訪問
佐藤:ずっとアメ横ということは、相性が良かったんですね。
石山:好き嫌いじゃなくて、生活のためで、馴染んでしまいました。そういう意味では、自分の性に合っていたんでしょうね。
■アメ横の魅力と未来
佐藤:アメ横の今後は、どうなっていくとお考えですか?
石山:お客さんが来るか来ないか、観光客が集まるかどうかは、私にはどうにもできないことですからね。街づくりにしても、経済を伴うことですから、こういう街にしたいといっても、その通りにはならない。ましてや、アメ横は広域商店街で、今や国際的な商店街になりつつある。ケバブもあれば、魚や乾物、食べ物も売っている混沌とした状態です。でも、それがアメ横であって、その猥雑なところが魅力であり、良さなのだと思います。異なる文化が寄せ集まっている。もしデパートの地下の食品売り場のように、統率の取れたものになってしまったら、たぶんそれはアメ横ではなくなる。この猥雑さがアメ横特有のエネルギーであって、人を惹きつける魅力の根源だと思います。もちろん、このままでいいとは思ってないし、危機感もあります。
でも、それもやがて「よそ者、若者、ばか者」が出てきて、引っ張っていくんだろうと思います。そういう多様な人を受け入れる度量というか、来るものを拒まない懐の深さがアメ横にはある。今、JRが耐震補強工事を始めていて、近代的な商店街になりつつありますが、通りを挟んだアメ横ビルも、いずれは近代的な建物になっていくとは思います。ただ、若い人のエネルギーで変わっていくためには、まだ時間がかかると思います。
[おわり]