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2018.03.19第二弾!モノづくりから上野を知る!その13

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Re: Reminiscence デザイナー 山_礼花

 

上野の魅力をモノづくりの側面から知るべく、台東区のモノづくりに精通する方々にお話をお伺いに行きました。
13回目は、『Re:Reminiscence(リ レミニセンス)』の山崎さんにお話を伺いました。

 

<山口>『Re:Reminiscence(リ レミニセンス)』のブランドについて教えてください。
<山崎さん>ブランド名は『Re:Reminiscence(リ レミニセンス)』です。
意味は『Re:』は再、元へ、返答、新たにという意味から由来しており、お客様と私の関係性や自分とモノの関係性を表しています。Reminiscenceは、記憶や思い出という意味で、それが自分のブランドのコンセプトと関わっています。例えば、ジュエリーで母が昔使っていたものをもらったり、母が父からプレゼントされたものを子供にあげたりという歴史が受け継がれるなどがある中で、昔は鞄などもそのようなことがあったと思います。しかし、だんだんとファストファッションの流行とともに使い捨てに近い形で次々と新しいバッグを使いがちになっていると思います。私は、元々命である皮を使っているので、その価値観などを親から子供へ受け継げるような愛着のある1点という位置づけとなる鞄をつくりたいと思いました。とっておきの鞄や、少しクチュールのような鞄を目指しています。だから、手作業であったり、刺繍が入っていたりというリテールにもこだわっています。ブランドコンセプトは3点です。
・神秘
・造形力
・生命力
曲線からインスピレーションを得ることが多く、鞄は直線的なものよりコロッとしたものが多いです。工場でやる部分と、自分でこだわってやる部分は分けています。
制作に時間がかかっても、ディテールをイメージ通りに再現するために手作業にはこだわっています。私の鞄は、先程もお話ししたようにクチュールのようであり、世代で受け継がれるというコンセプトがあるので、幅広い世代の方に使っていただいています。例えば、クオリティーのよいシャツとジーンズ一枚あれば、Re:Reminisenceの鞄を持っていただくことで、その方のスタイルが出来上がるというほどのアイデンティティがあるものをつくれたらいいなと思っています。

 

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実シリーズ 色:キャビア

 

<山口>とにかく印象的でかっこいいですね。今まで見たことないのでなんて表現したらいいでしょうかね(笑)。
<山崎さん>形容詞で表せないもの、一言で表せないことを表現したいと思っています。例えば『丸い形』からサッカーボールを想像する人や蜂の巣を想像して怖いと感じる人など、人によってそのモノから感じることはそれぞれだと思います。一つのプロダクトから多くのことを感じてもらえるような表現ができるということは嬉しいことです。
今までの日本製バッグは、上質であり、シンプルで機能性のあるものというものが多かったと思います。私は、そこにストーリー性があって、バッグが華になれるようにしたくて、持つことでその人のスタイルが出来上がり、キャラクターを足せるような存在感があるものをつくりたかったのです。

 

<山口>考え方がしっかりされていますね。いつ革に興味を持たれたのですか。
<山崎さん>元々ものづくりは好きでしたが、初めは建築について勉強していました。だから元々3Dでものを見る、空間として捉えるということは好きでした。特に、バッグは人が持ち歩くもので、大切なものがその中にあるということで『家』と同じだなと思っていました。建築からバッグへ行きつくまでにいろいろなものを試してはみたのですが、ここに落ち着きました(笑)。幼いころから表現することは好きでしたが、感情表現が苦手で、音楽やバレエ、絵を通して表していました。なぜ革かというと、布は切るとほつれて処理をします。しかし革の場合は切ればそのまま使え、磨けば磨くほど輝き、お湯に濡らせば伸びてくれます。自由度が高い形成しやすい素材です。また、革は生き物ですので『生命力』を表したいという私の考え方に近いので革に魅力を感じています。

 

<山口>だから革なのですね。ところで山崎さんは、どちらでデザインの勉強されたのですか。
<山崎さん>海外では合計6年ほど勉強しました。建築をやっていた頃は、まだ迷っていました。しかし、私は、昔から自分でやらないと納得できない性格なので、20歳の時に決断しました。ずっと建築を勉強していましたので、アクセサリーのポートフォリオもないし、英語もそれほどしゃべれなかったです。まず、1年半ほどニューヨークへ行きました。初めはFITという大学へ入ろうと思ったのですが、どちらかというとコマーシャルよりなので、もう少しアート寄りの学校を希望しイギリスへ行こうと決意しました。カバンの専門の課だったのでデザインや縫うことなどすべて一通りやりました。

 

<山口>海外の学校だと先生の教え方など日本と違うのでしょうか。
<山崎さん>言葉は強めでしたね(笑)。デザイナーの仕事に正解はないので、言っていただける方が私はありがたいです。全員がそのまま卒業できず、進級で1クラスいなくなるとかもありました。

 

<山口>海外でここが一番成長したという部分はどこですか。
<山崎さん>自分のテイストが決まったということです。それと自分が強くなりました(笑)。海外では自分の意見を言わないといけません。とにかく私の考えを相手に伝えます。忍耐力がつき、人間性も磨かれたような気がします。

<山口>海外へ行ってよかったですか。
<山崎さん>濃い経験をできました。海外では、考えている時間、後悔する時間もなかったです。一人暮らしが初めてで、心細いことがたくさんあり、心が折れそうな場面も多々ありました。しかし、今はその経験があったので「まだこれくらいなら大丈夫、大丈夫」と思えています(笑)。それが力になっています。周りからは、考えないで行動していると言われるのですが、やはりやってみないと納得できないので、まずやってみるようにしています。

 

<山口>今までの経験が、プロダクトに全て表現されているんですね。
<山崎さん>私が、海外にいて卒業制作をするときに、日本では大地震がありました。日本人としてインターナショナルな方々へデザイナーとして何ができるかと考えたときに「生命力」、「神秘」という単語が出てきました。どのような場面で、このような単語が出たかというと、日本にいるときには、気づかなかったことですが、海外に出て日本の魅力に気づきました。日本人は、全くなくなった場所でも、そこに再構築する力があります。例えば、海外であれば、地震が起きてしまったら同じ場所には住まず、別の場所へ引っ越してしまいます。
しかし、日本人は、土地への愛着があり、同じ場所へ戻ります。植物・動物も、人間がいなくなっても、同じ場所へ住み続けます。
自然というテーマだと、未来に対してマイナスなニュースが多いように感じます。プラスなニュースは、機械やロボットなどの技術の進歩に関してが多いです。自然についてもプラスなことが見られて表現できたらいいなと思いました。例えば、植物と科学が交わって、何かが生まれるかもしれないなどのイメージを持ちました。
これらから『生命力』というワードが浮かびました。また、深海魚やその他の生物を見たりするとすごくきれいで、数学的な形でできています。
これは未来にもつながっていて、そこからインスピレーションを得ています。

 

<山口>山崎さんのお話を伺って、建築がバックボーンにあるんだなと感じました。論理的な部分もそうですが、多くの経験をつなげ、土台があり、そこに様々な経験や感性などもプラスされ、今があるのだと思いました。
<山崎さん>あまり意識していないですね(笑)。私は2Dでモノを考えないです。絵はささっと書いてすぐにつくり始めてしまいます。

 

<山口>頭の中に3Dで見えているのはすごい才能ですね。
<山崎さん>私の場合、相手に伝えるときに、絵で伝えるよりも、形にしてしまった方が早いのでつくってしまいます。微妙な曲線などは、絵よりも形にした方が伝わりやすいです。今の話が、デザイナーズビレッジに入るきっかけにもなっているのですが、最初は日本に帰ってきて就職することを考えていました。しかし、大手の企業になればなるほど、作業が分担されていてデザイナーは紙までで、その先は別の方が作業することが多いと思います。私は、自分で手を動かすことに魅力を感じていたので、少し違うなと思っていました。また、トレンドに追われてデザインする様子を見ていて、私がデザイナーとしている意味などを考え込んでしまいました。私が海外にいるときに、デザイナーズビレッジを知りました。雑誌で特集されていたかと思います。海外の書店で見て、その後インターネットで検索をしました。そのことを思い出し、選考を受けて今に至っています。

 

<山口>デザイナーズビレッジに入居されていかがですか?
<山崎>いろいろな方の意見を聞けて、今まで知らなかったビジネスの知識が得られます。それを自分なりに消化して考えるようにしています。
商標の取り方など、細かいことをたくさん学べてありがたいです。周りの方の存在もすごく大きいです。忙しい時に、夜遅くまでいて、自分なりにがんばったなと思って周りを見るとまだ部屋にいる方がいて、そういう頑張っている方々が結果を出しています。入居者の方々は、様々なバックグランドがあり、いろいろな知識を持っていて、教えてもらえるんです。撮影前に洋服のスタイリングをしてもらったりもしています。入居できて本当によかったです。それから地域の方々も優しいです。外注をお願いすることもあります。自転車で行ける範囲で全てが揃うので、材料を買いに行き、何かあればすぐに足も運べます。知れば知るほど面白い街ですね。歩けば歩くほど発見があり面白いですね。
迷って違う路地に入っても面白いものが点在していて、近隣の方にはパッションがあり、浅草と上野をつないでいるので海外の人もいて、魅力があふれて熱もあふれている地域なんだと思います。親戚が増えたように感じるほどあったかい街です(笑)。よく上野近辺のことを「懐が深い街」とおっしゃる方がいますが、いろいろなものが共存しているからこそ、そのように感じるのでしょうね。

 

<山口>話をガラッと変えますが、今楽しいですか。
<山崎さん>楽しいですけど、大変ですね。革製品だとお客様がどのように使ったかということも現れるので、それを見るのも楽しいです。使う革へのこだわりは、お客様には女性が多いので革のオイルのバランスが良く、ひび割れをしにくいものを選んでいます。あとはつくる形によって変えています。例えば木型で伸ばすものは、形成しやすい革があってそれを使っています。サンプルをつくってみないと、その革が適しているかなどもわからないので、試しながら革を選んでいます。今、私がこだわりながら作っているのは、入れやすさです。私のイメージで、男性は多少使いにくくてもデザインが気にいれば、そこへあわせるイメージがあります。しかし、女性は、使いにくければそれがたとえかわいくてきれいでも、使い続けないイメージがあります。このような変わった形で機能性を持たせるのは難しいのですが、今はそこを課題にしてモノづくりをしています。

 

<山口>今新しいアイディアはどのくらいお持ちですか。
<山崎さん>だいたい20個くらいの新商品アイディアは持っています。インターンをしていた時代は、1日で50個以上のアイディアを出し、その中から数個選ばれるようなこともしていました。アイディア出しは、私の一番得意なことです。ロンドンの時にお手伝いしていた方が、いろいろな素材を組み合わせてバッグを作っている方だったのですが、お客様一人ひとりカスタマイズをしていました。その作業が面白くて、相手の顔がわかり渡したときにどのような顔をするかなどを見ることができて、そこが楽しみにつくれました。だから私は、量産というよりも相手の顔が見えるくらいの規模でつくりたいです。最終的には、自分のアトリエ兼ショップを持つことが目標です。日本だけではなく海外へもアプローチもしたいので、秋に海外の展示会へ出展しようと思っています。

 

編集後記
お話を伺う中で、様々な経験がプロダクトに反映されているということがわかり、心からなるほどと思うことができました。それは、論理的であり建築を学んでいたからこそのことだと思う。これまでの人生を映し出し、それを表現し続ける山崎さんの今後にも大注目だ。

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