2015.12.04Special Interview「東京メトロと上野」④

[第4回:上野の街と共に]


●東京地下鉄株式会社 常務取締役 村尾 公一さん ●聞き手 佐藤 輝光(松坂屋上野店)

 

銀座線の開業以来、上野に本社を構え、上野の街と共にその歴史を刻んできた、東京メトロ。上野の街に対する想い、その魅力について、東京地下鉄株式会社常務取締役の村尾公一さんに伺いました。

 

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■街の多様な個性が生む、活気

 

佐藤:先日、このサイトの件で岩倉高校の放送部の学生さんとディスカッションする機会があったのですが、その時に、上野の街について、“どこまでが上野なのですか?”と尋ねられたんですね。上野という街のエリアがどこまでなのかというのは、曖昧だとあらためて思いました。 

 

 

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※上野駅出入口(開業時)

 

村尾:みんな、漠然と“上野”という言い方をしていますが、町名を統廃合したこともあって、純粋な昔の上野というのは消えてしまったのでしょうね。

 

佐藤:大丸松坂屋には関西の人も多いのですが、ある方から“ここはなぜ、松坂屋御徒町店じゃないんだ?”といわれまして(笑)。確かに上野というのは、人によって捉え方や見方が違って、括るエリアも違ってくる面白い街だと思います。

 

村尾:上野の街は、第二次大戦時に空襲を受けて、特に今、アメ横になっているあたりはすべて焼けて、戦後になって市場ができて発展してきた経緯があります。そういう意味では、新しい街でもあると思います。浅草は老舗を看板にしていて、伝統を大切にしているところがある。同じ台東区でも、浅草と上野で街場の人たちの気質や雰囲気に違いがあるんですね。上野の人は、外から入って来る人にもウエルカムなところがあって開放的。その代表がアメ横です。今やここは日本なのかという雰囲気ですが、そういう進取の気質みたいなものが上野にはあるような気がします。

 

 

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上野公園と東京国立博物館

 

一方、上野の山には博物館、美術館などの文化施設があって、日本初の公園として日比谷公園と同時に開発された上野公園、そして東京藝術大学もある。そういう山の上の文化・芸術性と、山の下の進取の気質を持った街が一体となっているところが上野というエリアの特徴になっていると思います。私は街も生き物と同様、多様性が重要なのではないかと思うのですね。東京は街ごとにいろいろな表情、個性があって、バラエティに富んだ特徴があるからこそ、都市としての生存力が高いのではないかと思うのです。単一文化で単一的な特徴だけでは、それがダメになると一気に衰退してしまう。しかし、多様性があれば、そう簡単には衰えない。たとえば、昔ながらの商業中心の街があったとします。近隣の街の新たな商機におされて元気がなくなってきた。しかし、別の文化面で注目されて、また再浮上してきた、というように、それぞれの街の多様な個性が刺激しあって東京全体に活気をもたらしている。そういう東京の特徴を、上野というひとつの街が、持っているわけです。なかなか面白い街だと思います。


■街歩きしたくなる、魅力づくり

 

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上野広小路の、松坂屋上野店 

 

佐藤:松坂屋上野店の周囲には、湯島、上野広小路、仲御徒町といった地下鉄の駅があって、末広町や上野駅もいれると全部で9駅ほどになりますが、駅の連絡としてはつながっていないので、多少不便かもしれませんが、駅から駅を街歩きするにはちょうどいい距離ですね。

 

村尾:そうですね。ただ、訪れる人に街を回遊してもらうには、「歩く街としての演出」が必要かもしれませんね。例えば、日本橋界隈は、街歩きしながらデパートにも立ち寄れるような、街自体が歩きたくなる雰囲気になっている気がします。上野も、そういう街の雰囲気を創っていく必要があるのではないでしょうか。

 

佐藤:上野の場合、公園口を出て文化施設に行き、公園口から帰られてしまうと、結局、広小路の方へ人が降りてこないんですね。我々の努力不足もあると思いますが、博物館や美術館を楽しんで、公園を歩き、最後は松坂屋で買い物をして帰るという流れができるといいんですが(笑)。

 

村尾:山の上の文化施設に来る人と、アメ横などに来る人の層をしっかりと捉える必要がありますね。日本橋界隈を歩いている人の場合は、ある種共通の雰囲気を感じます。そう考えると、上野の山の文化施設に足を運ぶような人たちが寄りたくなる雰囲気を、街に創っていく必要がある。その上で、山の下の街としての特色が出てくると面白い。今年の当社の企業CMも上野からスタートして、シリーズでいろいろなエリアを紹介していますが、地域をテーマに、そのエリア周辺を紹介しながら、さまざまな媒体を通じて地域と結びつけていくような施策を考えています。

 

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佐藤:あのCMは、すごくいいですね。街への親近感にあふれていて。上野編は、よく私たちの周辺でも話題になりました。

村尾:収益に直接結びつくというよりも、いろいろな地域を紹介して、あそこに行ってみたいと、東京を再発見してもらうことで、結果として東京メトロを利用していただく。そういう意味では、地域と東京メトロがもっと結びつきを深めて、お互い活性化するような施策を打っていけるといいなと思います。
(つづく)

※写真は東京地下鉄株式会社よりご提供いただきました。無断転載を禁止いたします。

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