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[第5回:暮らしと神社]
●五條天神社 宮司 始澤 澄江さん ●五條天神社 禰宜 瀬川 真澄さん ●聞き手 佐藤 輝光(松坂屋上野店)
上野の町の鎮守様として、土地に根ざし、時の流れと共に、その変遷を見守って来た、五條天神社。時代が変わりゆく中で、時代とともに神社の有り様も、暮らしとの関わりも変化しつつあります。最終回となる今回は、暮らしと神社の関わりについて、宮司の始澤澄江さんと禰宜の瀬川真澄さんにお話を伺いました。
■上野の町で育って
佐藤:五條天神社の、今に至る歴史のお話、神事のお話など、いろいろとお伺いしてきましたが、最後に今の時代の神社について、お聞かせください。
現代の住環境に合った神棚
始澤:私の子どもの頃は、どこの家にいっても、神棚と仏壇があって、お榊が枯れていることはありませんでした。毎日きちんとお参りされていたのでしょうね。仏壇にも活き活きとしたお花がいつも供えられていました。友だちの家に遊びに行って、おやつをいただくときには、必ず神棚や仏壇に供え、手を合わせてからいただいたものです。我が家では、神様にあげてからいただくというように、当時はどこの家でも、そういうことを普通にしていました。両親が働いていて忙しくても、祖父母からそういうことを教わり、みんなが手を合せる様子を見ながら育ったわけです。今は核家族が多く、家族の形態も多様になって、なかなかそういうことが次の世代に伝わらなくなってしまいました。住まいについても、今は上野の町に住む人が少なくなりましたね。昔はお店の上に住んでいた方が、他に住居を建てて移ってしまうので、ある町では、夜になると人がほとんどいなくなってしまうところもあるようです。私の同級生も、当時は1クラス50人の時代でしたから、近所に90人くらいは住んでいましたが、今上野に住んでいる人は本当に少なくなってしまいました。仕事で上野の町に通って来ている人はたくさんいますが、私たちの頃のように上野の町で育ち生活する、というのはなかなか難しい時代になったのかもしれません。そんな中で、何とか上野の良さを子どもたちに伝えていきたいと思いますが、私にできることといえば、「心の大切さ」を伝えていくことでしょうか。それは、日本人の「こころ」を育んだ「自然を大切にすること」、そして日本人が歩んで来た「歴史を伝えていくこと」、と考えています。そのためにも、こうして継承してきた日本の伝統文化を伝えていくことが大切で、一人でも多くの方に興味を持っていただくのが一番、と思っております。こうして代を任って神社を守ってきた身としては、そういう心を伝えていきたいと思っています。
■上野の町の鎮守様として
佐藤:宮司さん、禰宜さんのお話の端々に、上野の町に対する想いを強く感じます。
上野の町の鎮守様として
始澤:上野の町の鎮守様ですので、本当は町中にあるというのが、いちばん嬉しいことなんです。町中にあれば、門を開けた時に、町の皆さんに「おはようございます」とご挨拶できますし。今は立地上それができず、少し寂しいですね。氏神様として、そういう町の人と共にあることがいちばんで、毎日祝詞をあげる時には、上野の町の平穏と繁栄をお祈りしています。やはり、上野の町にいる方が元気でいらっしゃるのがいちばん嬉しいことですからね。
瀬川:以前、ある先生に、「“社会”という言葉は、社(やしろ)で会うから“社会”というんだよ」と説明していただいたことがあるのですが、神社はそういう場所であるように努めていかなければならないなと思っています。この場所を守ることが大切で、神事も暮らしに根づいたものですから、町の人たちとの接点であるということが基本だと思います。
始澤:家の中でも、朝起きたら神棚に手を合わせて、お仏壇に手を合わせて、ということが少なくなっています。最近は簡易神棚というのもありまして、神棚を設置することができないマンションでも、棚の上に置くことができるんですね。これでしたら、現代の住居形態でも手を合わせることができます。
人々の願いのこもる、絵馬
佐藤:これはよいですね。今の住環境にも合います。
瀬川:例えば、一日と十五日にお榊をあげなければいけないのに、忘れたから、悪いことがあったとか、そうなると、心の負担になってしまいます。ですので負担にならないところから始めて、だんだん習慣になれば良いので、初めはご自身で決めてください、と申し上げています。皆さん、一年の始めには、初日の出をありがたいと思われるのと同じで、神道の場合は、年の初めの日が昇る時には、神様の力が最も増す時なので、ぜひお参りしましょうということになります。その時のお力を分けてもらうために、年末にお掃除をして清めて、新しいお札に授けかえて、新年を迎える準備をします。合格祈願など、それぞれの目的がある場合には、それが拠り所であることが大切です。例えば昨年、おばあちゃんに合格祈願のお守りをもらったけれど、浪人してしまった。でも、おばあちゃんからもらった大切なお守りなのであれば、次の年もそれを持って心新たにお参りにみえればいい。その時に心を切り替えたり、周りに感謝したりすることが大切なんです。神社というのは、そういう心の拠り所として、日々の暮らしとつながっているものです。もっともっと身近に感じて、足を運んでいただければ嬉しいですね。
(おわり)
五條天神社 フォトアルバム
鳥居をくぐり、目に止まるいろいろな造形のかずかずに、歴史と伝統が感じられます。