TOPICS
注目記事
A-griffe(あぐり)の株式会社イビインターナショナル藤井代表取締役
上野の魅力をモノづくりの側面から知るべく、ファッションディレクターとして活躍する黒島美紀子さんと一緒に、台東区のモノづくりに深く精通する方々にお話を伺いに行きました。
第二弾は、実際に上野やその周辺にお店を持ち、活躍されている方を中心に、ご紹介したいと思います。
4回目は、秋葉原の2K540にショップを構えるバッグブランド、A-griffe(あぐり)の藤井タケヲさんにお話を伺いました。
<黒島さん>藤井さんとはとても長いお付き合いですね。
<藤井さん>そうですね~、ながくなりました!もう14年くらいになるかな?
<黒島さん>私が現場バイヤーをやっていた時からのお付き合いで、その頃から素敵な商品をたくさんつくっていらっしゃいました。その頃は、たしか表参道にショールームがありましたね。
<藤井さん>そうですね、僕たちは、洋服のデザインや卸売から、カバンのデザインに転向しました。その頃は、“ファッションを扱うものは、青山とか千駄ヶ谷に居を構える”という不文律みたいのに囚われていて、ずっとそこらへんを転々としていました。そんな時代でした。
藤井代表取締役にインタビューする黒島さん
<黒島さん>ですよね。千駄ヶ谷とかには、まだまだ小さなアパレル会社が沢山あります。
<藤井さん>でも色々業界を長くやっているうちに、ちょっとずつ業界のカラクリが見えてきたというか、“今年はこれが流行です”というトレンドみたいのに乗らないといけない雰囲気とかが虚飾に感じられてきて・・・
一方で、お客さんはファストファッションなどを経験して、今や“安いものでうまく買い物する方が頭いい!”みたいな時代なのに・・・
<黒島さん>確かに!今はみなさん、自分らしく上手にファッションを取り入れていますよね。価格帯にも幅ができて、冒険しやすくなりました。
<藤井さん>そんな時にJR秋葉原駅とJR御徒町駅の間の高架下に「2K540」というモノづくりとかクラフトにこだわった商いの場をつくる、とのお誘いをいただいて・・・
カバン屋としては後発だった自分たちとして、“手づくりの1点ものにこだわり、ファッションに流されすぎない立ち位置を極めよう”と思い移転したのです。ちょうどお店と工房を両方もてる環境でしたし!
A-griffe(あぐり)の株式会社イビインターナショナル藤井代表取締役
<黒島さん>そうやってこの下町エリアに移転されてきたのですね!<藤井さん>はい!そのとおりです。
ここに来てみたら、これが実に面白い。2K540にいるメンバーは、いろいろな商材を扱っていて、みな違う“道具”を使っていたりして・・・
新しいコラボレーションがいっぱい生まれています。この素材をこの道具でつくってみたらどうなのだろう?みたいな?
このエリアには職人さんも多いですし、モノづくりの街としての一体感があります。
そして2K540チームもこのエリアの住民や松坂屋さんみたいな地元の商業との繋がりを深めるために、皆でゴミ拾いとかお祭りとか地元イベントに参加していきました。
例えば町会には、若手がもういなくて、神輿が上がりません。
そんな時、僕たちが若手として半纏をつくらせていただいたり、お借りしたりして、鳥越神社、下谷神社、その他のお神輿の棒に携わらせていただいています。
やっぱりヨソ者は、一緒に汗をかき、同じ酒をのまないと!
<黒島さん>深みがありますね。大事です。神輿も今や年齢や職業を超えて皆でかつぐ。本物の“地元”感がありますね。
ところで、A-griffe(あぐり)さんの商品はすごく特徴がありますね。昔の新聞や雑誌をそのままバッグに利用して・・・
<藤井さん>はい。1950年代から72年くらいまでのフランスやドイツの雑誌や新聞を切り抜いて、それを特殊なプラスティックでコーティングしています。
ビニールだと冬場に固くなるのですが、この素材だと固くならず、手になじみます。使っているうちに中の紙がエイジングして、良い感じになります。
<黒島さん>この文字とイラストの絶妙なバランスが素敵です。
<藤井さん>フランスの雑誌や新聞はそのイラスト画が非常に美しい、また、ドイツのものは特殊な活字でフォント(字体)の美しいものが多い。
色々なところからデザインが綺麗な雑誌や新聞を見つけてくる。だいたい、インテリア、モードフォト、デザートやケーキ、猫や犬などの動物、のテーマですかね?
実はその紙自体も洗ったり柿渋でわざと色をつけたりして、シワを伸ばし、干して・・・(笑)
最後の仕上げはコラージュです。バッグの面に上手く柄合わせをするのが大変なので、ほとんど手作業なのです。
A-griffe(あぐり)の商品
<黒島さん>なんと長い行程(笑)!雑誌柄をプリントして大きなロールでつくったものとは全く違いますね。だから一つひとつ柄が違うのですね!
<藤井さん>それどころか、A面・B面的に使っていただけるように、あえてデザインを表裏で違う感じにしています。ほら、気分やお洋服とのバランスで使えるように!
さらに、マチの部分も明るめに見えるようにしています。実はバッグって持っている時はサイドがすごく目立ちます。
<黒島さん>う~ん、完璧な気遣い(笑)。
しかし、これだけ気を遣ってモノづくりをするって本当に素晴らしい!買っていただく方の一人ひとり理解いただければそれだけ愛着も深まりますね!
<藤井さん>そうですね。押し付けるつもりはないけれど、やっぱり想いを形にしたい。50年代から72年くらいまでの雑誌や新聞をあえて選んでいることもそう。郷愁を誘う懐かしい絵柄やデザインでちょっと昔の苦い思い出とか、このバッグの放つノスタルジーから、持つ方みなさんが思いを蘇らせてくれる瞬間があれば!
そんな気持ちで一つひとつつくっています。
【編集後記】
A-griffeと書いて“あぐり”と読む。“griffe”の元の意味は“獅子の爪痕”。
現在では落款(らっかん)とか、シグニチャー(しるし)みたいな意味になっています。そして、松坂屋上野店の新店のサインには家紋のような下り藤の花がデザインされています。全てに奥の深い意味が込められている“あぐり”さん。
“あぐり”の世界観を知れば知るほど、単にカバンを買うっていうだけじゃないその行為にどんどん引き込まれていきますよ、みなさん。