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2014.10.29Special Interview「上野動物園、むかし・いま・みらい」

[第1回:変化する上野動物園]
●恩賜上野動物園園長
土居 利光さん

●聞き手
佐藤 輝光(松坂屋上野店)

 

日本を代表する動物園として、誰もが親しみや憧れを持って訪れる、東京都恩賜上野動物園。観るものを魅了する動物たちと、その生態を活き活きと見せる魅力的な施設づくりで、名実共に最先端の動物園として、訪れる人に想い出深い体験を提供しています。そんな上野動物園に、さまざまな工夫と努力で、次々と新風を巻き起こしている土居園長に、動物園にまつわる多彩なお話を伺いました。

 

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■カップルが増えた!?

 

佐藤:最近、“上野で行ってみたいところは?”という調査をしたのですが、No.1が上野動物園。多くの人にとって、上野動物園は想い出の場所だったり、行ってみたい場所だったり、圧倒的に関心が高いんです。そういうことで、今回、土居園長に、いろいろお話を伺えればと思った次第です。

 

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土居:動物園というと、子供の施設というイメージを持っている方が多いでしょ。“最近、動物園にいらっしゃいました?”って尋ねると、“いやあ、子供が大きくなっちゃって。孫もいないですし、なかなかチャンスがなくて”と、大抵の人が応えます。動物園=子供向けの施設というイメージが徹底して染みついているんだと思います。でも最近、間違いなくカップルが増えている。
昔の調査では、圧倒的に家族連れ。1割弱がカップルや友人同士でした。最近になってカップルが多くなったのはなぜか、私なりに考えてみたのですが、一つのきっかけになったのは東日本大震災です。

 

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震災後、旅行に出たり、外出したりすることをためらう心理が働いていた人が多かったと思いますが、ずっと家に閉じこもっているのもつらい。どこか近場に行こうと考えた時、いくつかの選択肢があると思いますが、例えば映画館。気分転換にはいいでしょうが、家族やカップルで行っても、会話が成り立たない。スクリーンを観ているだけですからね。
じゃあ、遊園地。ここも会話が成り立つようで、乗り物自体を楽しんでいるから、あまり会話にならない。
じゃあ、動物園はどうかというと、会話が成り立つんですね。

 

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なぜかというと、自分が小さい頃に動物園に来た時の話ができるし、知っている動物がいれば、そのうんちくも話すことができる。そういう話題をお父さんが子供に話したり、カップルで話せたりする。そして、それなりに人が集まっていて、活気がある。そういうプラスのイメージが感じられる身近な場所ということで、震災以降、動物園にカップルが増えたんじゃないかと思っています。 

 


■動物園は、人間の考えを映す鏡

 

佐藤:大人になって久しぶりに動物園に行ったら、檻がなくなっていたので驚きました。

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土居:そういう目で見てもらうと、“何で檻がなくなったの?”って疑問に思いません?その方が見やすいとか、いろいろ理由はありますが、動物園というのは、そもそも動物に対する人間の考え方が反映されている場所なのです。檻に入れてもいいと思っていれば、柵の中に閉じこめて観ることができる。でも、動物福祉という観点で本当に動物たちのことを考えたら、檻の中に閉じこめて、そこに一頭だけぽつんといるのはおかしいと、そういうことになるわけです。動物園や他の施設もそうだと思いますが、昔の人が何の疑問も感じなかったのは、そういう常識の中で生きていたからです。 

 

ものごとというのは、人間の考え方が反映され、その中で当たり前のものとして動いているものです。だから今、檻がなくなったのは、動物が活き活きと動いている姿を見たいという人が増えてきたからで、だからこそ、檻の中に閉じこめて展示するという方法は採らなくなったわけです。動物園というのは、そういうふうに大人がいろいろ考えなければならない場所だと思うんですね。決して子供だけのものではない。大人がここに来て、いろいろなことに疑問を持って考えてみる、そういう側面というのも大切なのではないかと思っています。

 

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(次回につづく)

 

 

 

 

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