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[第3回:上野の桜のルーツを探る]
●上野桜守の会
・運営委員長/木村 雄二さん(しゆう株式会社)
・事務局長/佐藤 一也さん(有限会社みはし)
●聞き手
・佐藤 輝光(松坂屋上野店)
花見の名所として、多種多様な桜を楽しむことができる、上野。Special Talk 第3回目は、桜の種類や上野のソメイヨシノのルーツなど、桜の品種に関する話題に花が咲きました。
ソメイヨシノと不忍池(上野桜守の会 提供)
■桜の種類と野生種
ヤマザクラ(上野桜守の会 提供)
?以前、佐藤さんとお話ししていた時に、上野の桜の種類は40?60種類もあると伺って、すごくびっくりした記憶があります。
木村:私もこの会に関わるまでは、公園の桜は7、8種類くらいかな、と思っていました。でも、こうして桜のことを学んでいくと、ソメイヨシノ一つとっても、いろいろな話があってとても面白いんです。
佐藤:3年前に千葉大で遺伝子の研究をしている人が、上野のソメイヨシノのDNA鑑定をしたんです。
木村:ソメイヨシノについては、親が何ものかという議論がずっとありました。ここに来て、DNA解析という手法がクローズアップされるようになったんですね。我々素人からすると、すぐにでも解析できるイメージがありますが、実はすごく大変な作業。葉からDNAを抽出するそうですが、DNAというのはとても長い螺旋状のもので、そのどの部分が何に関わるかを調べて、そこを取り出すので、時間もお金もかかる。桜には種類がたくさんありますが、研究対象になっているのは、その中のごく一部です。理由は、生物学的な研究では、野生種が対象になるからです。ソメイヨシノのように野生種ではないものは、大学の先生や(国立)博物館の研究者にとって、研究の対象外なのです。
?上野には、野生種はどれくらいあるのですか?
木村:上野にあるのは、5,6種(類)ですが、日本全国でみても、約300種類の桜がある中で、野生種は11種類程度しかありません。11種といっても、実際は9種。残りの2種はかなり早い段階で海外から持ってきたものです。野生種では山桜、江戸彼岸、大島桜の3種(類)が有名です。寒緋桜、支那実桜というのも野生種ですが、台湾や中国の方から持ってきた外来種。それ以外だと、丁字桜、豆桜、霞桜、大山桜、深山桜、高嶺桜。日光や中部、東北の山の方に行かないと見られない種類もあり、それらは東京では、気候的に暑くて育ちません。
■ソメイヨシノのルーツ
オオシマザクラ(上野桜守の会 提供)
エドヒガン(公益財団法人 日本花の会 提供)
?ソメイヨシノの親のDNA解析については、どうなったのですか?
木村:先ほど佐藤さんがおっしゃった千葉大の園芸学部の大学院生から話を聞いたのですが、最新の研究成果では、(上野の)ソメイヨシノの父親は大島桜、母親が江戸彼岸だそうです。ただ、江戸彼岸の中でも特殊な遺伝子を持っているもので、調べてみると、北関東、特に群馬県に集中しているそうです。遺伝子というのは、母親は辿れますが、父親は辿れない。なので、母親は上州の江戸彼岸で、父親はおそらく伊豆か房総あたりの大島桜。その交配によってできた可能性が高いということでした。それで、この上野のソメイヨシノをつくったのは、駒込の染井村にあった「伊藤伊兵衛」という植木屋だといわれています。「伊兵衛」というのは、染井の植木屋が代々襲名した名ですが、東京農工大学の相場芳憲先生の話によると、ソメイヨシノができた当時というのは、すでに染井の植木屋が衰退していたというんですね。おそらく、ソメイヨシノの生みの親とされている「伊藤伊兵衛」もつぶれていて、「伊兵衛」の看板も売られてしまったと。その後、染井は伊兵衛が栽培に成功したツツジで有名になるのですが、元の植木屋が衰退した後にできた、このツツジ屋が、伊藤伊兵衛の名前を語ってソメイヨシノをつくったのではないかということでした。
(次回につづく)