時計のお医者さんが繋ぐ時間、心温まる時計のリペアの魅力
大切な人へのプレゼントや自分へのご褒美に、時計を贈ったことはありませんか?
そんな時計を長く愛用して欲しいという思いを持ちながら、時計をこよなく愛し、真剣に向き合っている方に出会いました。
初めまして、名古屋芸術大学の「まほり」と「ひより」です。
この企画では、愛知の学生がアンバサダーとして松坂屋の広報に就任し、松坂屋で働く人をインタビュー。取材を通じて学生ならではの視点から百貨店の魅力をお伝えできたらいいなと思います。
今回ご紹介するのは、松坂屋北館にある「GENTA the Watch 時計修理カウンター」でショップ長を務める林知明さん。
林さんは“気軽に立ち寄って相談のできる、時計のお医者さんでありたい”と心がけて、日々働いています。
また、林さんへのインタビューを通して、時計から“人の命”のような奥深さを感じました。
この記事を通して、時計に秘められた意外な一面やリペアコーナーの魅力が、皆さんにお伝えできると嬉しいです!
技術者とお客様を繋げる“ショップ長”としての想い
林さんは、松坂屋に30年ほど勤めており、今の修理工房に異動してからは、およそ10年になります。
時計を修理する技術者とお客様を円滑に繋げる“ショップ長”として、スタッフ全員をまとめながら、それぞれが働きやすく、能力が活きる職場になるように努めているそうです。
「修理した後もお客様にはその時計を使って欲しい。その時計を好きでいて欲しいと思います。その手伝いがしたいという思いで働いています。」
そう語る林さんに、仕事をする上で大切にしていることを伺いました。
大切にしていること①|気軽に立ち寄って相談できる場所づくり
——仕事をする上で大切にしていることはありますか?
お客様にリラックスしていただけるように、お客様と同じ目線になって振る舞うことを心がけています。お客様が緊張していては、私たちスタッフに十分に本心を言えないでしょう。お客様の背筋が伸びていれば、自分も伸ばします。
リラックスした状態で、気軽に立ち寄って相談していただきたいです。緊張しなくていいんですよ。
——どのようなお客様が来店されるのですか?
お客様の中には、高価な時計なのになぜ壊れたのかと、憤る方もいらっしゃいます。そのような認識の誤解を解くことも私の役目です。高価だからこそ、メンテナンスを意識してほしい。
実は、値段の高い時計の方が繊細な加工で工夫されているため、デリケートなんです。少しの不具合で針の狂いや止まりが生じる。高級車やシルク生地と同じです。
お客様の持ち物や、身につけているものに例えて時計を表現することもあります。いい時計を長く愛用してもらいたいので、できるだけ伝わりやすくなるように工夫しています。
——なるほど、時計修理カウンターはとてもお客様思いの温かい場所なんですね!私自身、林さんのお話を聞くまで、“時計の修理をするための場所”というような、堅苦しい印象を持っていました。もっと気軽に立ち寄っていい場所なんですね。いつか大切な時計を持った時に、相談しに行こうと思います。
そして、利用者の立場からみて気になるのは、やはり“時計の修理”について。時計の修理には、多額のお金が必要になる場合があります。
なぜそこまでして、新しい時計を買わずに修理をするのでしょうか。お話を聞くと、そこには、知られざる時計の物語がありました。
大切にしていること②|時計のお医者さんであるために
——時計はメンテナンスをきちんとすれば何世代でも使えるものなのですか?
時計の状態、お客様の気持ち、メーカーの部品、共通部品があるか否か等の要素を、複合的に見なければいけません。
できることなら、お客様の要望を叶えたいですが、できるともできないとも言い切れません。色々な要素が混ざっているんです。
ただ、ブランドやタイプによって異なりますが、定期的なメンテナンスをすれば延命させることはできます。
——実際に、時計の延命処置がしたいという要望のお客様がいらっしゃったことはありますか?
ありますよ。何世代にも渡って使っていると、メンテナンスの時期が短くなっていくので、次第にお金がかかるようになってきますが、“遺品として譲られたものだから、動いている状態を維持したい”という方もいます。
時計としての機能は戻らず、動くだけの姿しか見ることができないかもしれませんが、それでも良ければお手伝いさせていただきます。人の命と同じですね。
今までの思いが詰まった時計の、動いている姿が見られるだけで、お客様の気持ちが温かくなるのなら、私たちも精一杯努力します。
——時計のただの’’モノ’’としての一面だけでなく、そこに隠された人のストーリーを感じました。時計を通じて、人と人も繋がっているような気がしました。林さんもそんな思いで接客をされているのですか?
私たちは、時計のお医者さんです。病院の先生も、診察では最初に「今日はどうされましたか?」と聞きますよね。いきなり処方箋は出さない。
症状を聞いて、診察をして、必要があれば処置をします。私たちも同じです。ヒアリングを通して、状態の確認やお客様自身がどのようにしたいか聞きます。このやり取りも、“人と人”ですね。
林さんの「人の命と同じ」と言う言葉が、心に響きました。時計という時を刻む機械が変わらず動くことで、大切な人と共に過ごした思い出やかけがえのない時間が今も生き続けているように感じます。一度修理した時計が、また時を刻んで続いていく様子は、まさに命のようだと思いました。
最後に、林さんへ、仕事をする上でやりがいを感じる瞬間について伺いました。
大切にしていること③|林さんのやりがい
——やりがいを感じるのはどんな時ですか?
過去に修理した時計を、お客様が何年か経った後に身につけて持ってきてくださったり、「あの時はどうも」と声をかけてくださるときです。
その方の時計を見て、「ああ!あの時の!」と思い出します。時計を見るとすぐに分かるんです。次にまた相談に来てくれることを目指して、やりがいにしています。すぐに結果が出ないかもしれませんが、月日が経った後にやりがいを感じるのもアリですよね。その出会いが嬉しいんです。
——林さんのお話を聞いていると、林さん自身がとても時計を愛していることが伝わってきました。林さんご自身は、時計がお好きですか?
仕事が楽しくて、仕事のことばかり考えてしまっています。趣味と同じ感覚です。時間があっという間に過ぎる。暇な時に仕事を思い出して、あの時こうしていればなと、反省することもあります。長年働いているうちに時計を好きになったので、時計の雑誌を家で笑いながら見ることもあります。
取材を終えて
時計の奥深さ、そして修理にかけた思いが繋ぐ出会いと時間に感動した取材でした。
何より印象的だったのは、林さんのお人柄がとても謙虚で紳士的だったことです。
お客様への対応はもちろん、時計への向き合い方も素敵でした。
働く姿勢に感銘を受けたので、今回のこのお話をいつまでも忘れずに過ごしたいです。
林さん、貴重なお話とお時間をいただき、ありがとうございました!
《今回のゲスト》
北館5階 GENTA the Watch 時計修理カウンター ショップ長 林知明さん
趣味は時計のことを考えること。
昔はいろんなことやりましたが今は休みの日に時計の雑誌みたり、
時計のこと調べたりしているとあっというまに時間が過ぎます。
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愛知の学生が広報(アンバサダー)となり
松坂屋名古屋店で働く人やコトをご紹介いたします。