その五十四　ビートルズがやって来た！

＃松坂屋ヒストリア小話　その五十四

1966年（昭和41）ビートルズ日本公演のプログラムを印刷したのは松坂屋の子会社「栄印刷」だった。

1966年（昭和41年）6月29日、英国のロックグループ「ザ・ビートルズ」が来日し、“今世紀最大のコンサート”といわれる日本公演が超満員の東京・日本武道館で行われた。会場を取り囲んだ2,000人近い警察官の厳重な警備のもと、ビートルズの演奏が始まるや会場は大歓声に包まれ興奮のるつぼと化し、CBC（中部日本放送）や日本テレビなどによるテレビ中継も放送された。この日本中が熱狂したビートルズの来日公演プログラムを製作したのは名古屋の印刷会社「栄印刷」であった。同社は松坂屋が自社の包装紙を印刷するため印刷機と鋳造機を導入して開設した印刷部が母体となり、昭和22年に設立された松坂屋グループ子会社であった。ビートルズの日本公演は、かねてから招聘に強い意欲を示していたCBCにより実現したが、主催者であるCBCはコンサート会場で販売する「ザ・ビートルズ日本公演プログラム」と、そのプログラムに挿入する「ピンナップポスター」の2つの製作を栄印刷に発注したのであった。しかしながら、その印刷スケジュールは熾烈を極めるものであった。全36頁のプログラムは5日間で印刷、製本。ピンナップポスターに至っては、6月29日に来日したビートルズが飛行機から降りてくるところを撮影し即日製版、印刷し、翌日の公演に間に合わせるというものであった。当時、栄印刷の工場は名古屋･栄にあったため、羽田で写真を撮って、徹夜で名古屋に持ってきて製版、印刷し、また徹夜で東京へ運ぶという綱渡りであった。大変な仕事であったが、無事プログラム9,000部が会場で販売された。ハードスケジュールの中、納品を成し遂げたことで栄印刷の評価は高まり、その後もサイモンとガーファンクル、ボブ・ディラン、カーペンターズ、イーグルス、マドンナなど大物アーティストの公演関係の印刷受注が相次いだ。栄印刷は2015年石田大成社（京都市）と合併し社名は消えたが、ビートルズ日本公演時の奮闘ぶりは今も関係者の間で語り草となっている。

栄角地にあった栄印刷（昭和33年）