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2020.07.09

男性映画監督が生理に関する”声”を届ける映画『LOOKING FOR THAT』を撮った理由

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男性映画監督が生理に関する”声”を届ける映画『LOOKING FOR THAT』を撮った理由

映画『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』

 

 

男性なのになぜ?

 

「男性なのに、なぜ女性特有の”生理”についての映画を撮ろうと思ったんですか?」

 

私が映画を作り始めてから、メディアの方に限らず、多くの出会う人にこの質問をされました。私からすると、「撮りたいと思ったから」という理由しか見当たらないのですが、それだとこの原稿も成り立たないし、より多くの人に何かを届けようとする表現者の端くれとしてあまりも無責任なような気もするので、自分なりに「撮りたいと思った」という思いを掘り下げて言葉にしてみようと思います。

 

 

きっかけは命が生まれる瞬間

 

私自身、ずっと映像の仕事で生計をたてていたわけではなく、ある時まで会社経営をしていました。会社経営をやめて、自分自身が本当にしたいことはなんだろうと思った時に、映像を使っての表現活動をはじめました。

 

会社経営から退き、比較的時間に余裕があったとき、実の姉が二人目の子どもを妊娠。興味本位で、「出産の様子を映像におさめさせてほしい」と言ったところ、姉は快諾してくれ、私は姉の出産の一部始終をカメラ越しに見ることになりました。

 

出産に立ち会ったときの様子については長くなるので割愛しますが、「生まれる瞬間」に立ち会ったとき、すべてのマイナスやネガティブな感情はそこにはなく、極めてピュアな「喜び」の感情で分娩室が包まれていたことを今でも覚えています。

 

いざ姉の出産に立ち会った後、僕の頭にはこんな疑問が浮かびました。「出産は、生理があるからこそ起きるものじゃないのか。だけれども、なんで生理はなんとなく忌避されているんだろう。」振り返ってみると、この経験が生理についての映画を取り始めるきっかけ。

 

 

アレという言葉

 

私が「生理」についての表現をしてみたいと思ったのは、この時が初めてではありませんでした。数年前にもそういうアイデアがあり、友人にそれについて話したところ、みんな驚きというより奇異な目を私に向けました。「生理」のない男性からは賛同を得ることはもちろんできず、当事者である女性からも否定的な反応をされました。そのとき、僕はこう感じました。生きていく上で当たり前にやってくるもので、子孫繁栄のためには必要で不可欠なものであるにもかかわらず、「生理」はないもののように扱われているんじゃないか、と。

 

というもの、僕にとって「生理」は

決して遠い存在ではありませんでした。4人兄弟で育ち、そのうち2人が姉であったということ、そして生理前後の姉と母親の様子がいつもと違ったこと。僕にとっての「生理」とは、「女性の様子が一変し、何をどうしていいかわからないことで自分が不安になってしまう」期間という認識でした。

 

私の家庭は、性に対して比較的オープンな家庭であったと思っていますが、姉と母はある時期になるといつもこんな会話をしていました。

 

 

「私、今日”アレ”だから。」

 

 

「アレ」=「生理」。家族の会話でも、「生理」と呼ばず、「アレ」と呼ぶ。「生理」と呼べばいいのに、「アレ」と呼ぶ。僕にはそれがよくわかりませんでした。じゃあ、「アレ」とは一体何なんだろう。それを探すためにカメラを回してみよう。そうして、『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』の制作が始まったのです。

 

 

イメージではわからなかったこと

 

いざ「生理」についての映画を撮ろうと決めたのはよかったのですが、正直何から手をつけて良いかわかりませんでした。「生理」についてわかっていたことといえば、体に異常がなければ毎月定期的にやってくるもので、そこに経血が伴い、女性が妊娠するためのものであるということ。そして、この「生理」によって身体・精神共に不調をきたすことがあるということ。時間も限られており、会わずしていろいろな人の考えや体験談を聞いてみたいと思った私は、自身のSNSを通じて生理についてのアンケートを取りました。

 

「生理」という極めてプライベートな話題なので、あまり多くの数の回答を期待していませんでした。でもいざ回答が集まってみると、なんと約一週間で知人だけではない面識のない方も含めた100を超える方から回答をいただきました。

 

「生理を一言で表すと?」という質問に対しては、ネガティブな回答が多かった反面、人によっては「いとしいもの」とか「いのち」といった今まで考えたこともないような解釈をされている方もいて、人によって「生理」は全く違うものとして捉えられているんだと感じました。そして、何より私が驚いたのは、「生理」について多くの人が語りたいという熱量のようなものをどことなく感じました。

 

この時点で撮影をスタートできればよかったのですが、どこか納得できずにいた私が次にしたことは、「生理を体験する」ということでした。もちろん、身体的に生理を経験することはできません。そこで私は、生理用品(ナプキン)を身につけて生活してみることにしました。具体的に言うと、一般的な生理期間中の経血量のトマトジュースをナプキンに垂らして日常生活をしてみたのです。

 

いざやってみてわかったことはたくさんありましたが、とりわけストレスだと感じたのは、「屋内外関わらず、経血が漏れていないかどうかを“常に”心配しなければいけないということ」でした。他にも、外出時にナプキンを必ず持っていなければならない、生理期間中は服装にも制限がかかってしまう、さらに眠気・だるさ・お腹の痛さなどが加わってくる。そう考えると、生理は「ネガティブ」なものとして捉えたくなる気持ちを理解でき、男性である私はそこをずっと知らずに女性と接してきたと思うと、女性に敬意を示したいと思いました。

 

けれども、私の中で一点疑問が残ったのです。それは社会全体として、「生理」を無いもののように扱っているのはなぜだろうか?という点です。これだけは、生理を経験しているいろいろな立場の女性に直接お話を伺うことでしかわからないと思い、いよいよ映画の撮影をスタートしました。

 

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ピルを服用し月経コントロールされている方へのインタビュー

 

 

映画を撮り始めて見えてきたこと

 

『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』は、生理について多様な立場の女性にインタビューをしていくなかで、生理とはそもそも私たちにとって何なのかを考えるドキュメンタリー映画です。

 

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パートナーがPMS(月経前症候群)に悩む男性へのインタビューとその話を聞くパートナーへのインタビュー

 

詳しい内容は映画本編に譲るとして、どんな方にお話いただいたかをご紹介します。ピルを服用しながら月経をコントロールしている大学生、月経痛が軽減すると言われるスピリチュアルグッズを過去に使用していた方、セックスワークを生業とされている方、不妊治療を経験された方、会社を起業された方、子宮摘出された方、更年期を迎えた方、パートナーのPMS(月経前症候群)に悩む男性とそのパートナー、などの方々が映画でお話くださいました。

 

映画は、私の視点で私の意図によって編集されていますが、それでも多様な立場によって見えてきた「生理」というものはそれぞれに全く異なり、「生理」を一方向だけで判断しないための素晴らしい視点を与えてくれる作品になっていると思います。

 

その中でも、特に印象に残ったエピソードが二つあります。セックスワークを生業にされている方にインタビューしたとき、その方がインタビューの中で、女性は「半分家政婦、半分風俗嬢」であるという言葉を紡がれたとき、私たちの社会における「生理」にまつわる考え方がどこからやってきたかを明確に示していると感じました。

 

「生理」を忌避するものとして扱っているのは、もちろん女性自身がそうしたいと考えているからそうなったという背景もあると思います。しかし、なぜ女性が「忌避したい」という考え自体をもつようになったかを、私たち社会は長らく見てこなかったように思います。

 

私は映画を撮る前、「なぜ生理はタブーなものとして扱われているのか」という一つの問いを立てました。この映画でそれをすべて検証し、新たな視点を示すことができたかは定かではない一方、撮る前には予想もしなかったある種の答えにたどり着くことはできたと思っています。そこは、是非映画を観てご判断いただければと思っています。

 

 

「生理革命」は起きているのか?

 

2019年は「生理元年」と言われました。多くのメディアが「生理」に関することをこぞって取り上げ、私たちの生活レベルにおいても生理に関する商品やサービスが展開されました。例えば、生理用品を購入した際に中がみえないような袋に入れることを疑問視する運動や、そもそもの生理用品のパッケージを“いかにも女性”ではないパッケージに変えたり、パートナーや家族同士の月経管理をするアプリなど、確かに2019年は「生理元年」と言えたかもしれません。

 

実のところ、私はこの映画を撮る前「女性はなんで月経に対してオープンになれないんだろう?」と考えていました。むしろ「オープンでないこと」に対して否定的な考えでいました。そんなとき、リサーチの一貫で友人や知人に「生理」についての体験談を聞くうち、自分の考えが極めて偏ったものだったということを知りました。

 

例えば、私は生理用品に可愛いパッケージなんて不要だと思っていたのですが、「生理用品のパッケージは可愛いものであってほしい」と話す友人もいたし、あるとき少し年上の方に月経カップという選択肢をご紹介したところ、慣れているものからあえて新しい生理用品に挑戦することに後向きの姿勢を示されたこともありました。

 

そんなこともあり、映画を撮り終わった今では、生理に対して「オープンでないこと」に否定的な考えはなくなりました。一方で、私たち社会が「生理」に対してできていないことは、未だ残された宿題としてあるように感じます。

 

例えば、生理用品は数ある選択肢の中から個人のニーズによって選ばれるべきものですが、日本におけるナプキンの使用率が極めて高いことからもわかるように、社会全体とし生理用品を選択できる環境にあるかどうかは疑問が残ります。他にも、月経コントロールを目的とした低用量ピル服用に対して男女関わらず否定的な考えを持つ方がいたり(それは情報が十分に行き届いていない結果ですが)、そもそものピルの価格が高かったりと、女性にとって「生理」に関して選択肢が十分に用意されているかと言われれば、それはまだまだ発展途上にあると思います。

 

だからこそ、男性である自分自身は何ができるのだろうかと考えこんでしまうことも。正解はないと思いますが、私なりに考えたことは、「理解できない」ことを大前提に、「生理」に関する知識を身につけ、パートナーや家族と「生理」を「暗黙の了解」なものとして話し合わないのではなく(こういうときは「空気を読む」文化は不要だと思います)、あたりまえにある「生理」だからこそ、「話すべきもの」として捉えてみたらいいのではないかと思っています。

 

(余談)どうでもいい話ですが、私はパートナーに生理がくると「おめでとう」と言います。そして、生理期間中はいつもよりさらに優しくするように努めています。

 

「生理革命は新たな女性の時代の到来だ!」なんて、大袈裟なことは思いません。

ただ一つ思うことがあるとすれば、「生理」によって女性があたりまえに持つべき選択肢を奪うようなことがあってはいけないということです。

では、どのような選択肢が奪われているのか。それは、映画をご覧になってお考えいただければ嬉しいです。

 

 

 

映画『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』

オンライン上映&トークイベントを開催!

 

2020年7月23日(木・祝) 18:00~19:30

映画『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』上映会

トークイベント「男性が考える、生理のこと」

 

日本では「アレ」と呼ばれ、触れにくいものとしてタブー視されがちな「生理」。映画監督 朴 基浩 氏は「なぜ生理のことをアレと呼ぶのだろう?」という自身の幼い頃からの疑問の答えを探すべく、改めて「生理」を見つめ直すきっかけとして、ドキュメンタリー映画『LOOKING FOR THAT』を制作しました。本イベントでは、映画の上映会(約60分)とトークイベント(約30分)を開催。映画制作に至った背景や、映画の内容・撮影秘話を交えたトークを展開しながら、「生理」を通じて日本社会を見つめて行きます。

 

事前申し込み制です。詳しくはこちら

 

 

 

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プロフィール:

朴 基浩 (映画監督)

立命館アジア太平洋大学(APU)卒業後、通信制や定時制の高校生が卒業後に進路未決定にならないための活動を展開すべく、NPO法人D×P(現:認定NPO法人D×P)を設立。学校とのプログラム連携、TEDスピーチへの出演、世界会議への日本代表として出席。2015年9月に代表を退任後、映像制作活動をはじめる。監督を務めたCMが宣伝会議主催「ものがたりアワード」にてグランプリを受賞。現在は多ジャンルの映像制作や構成を手がける。

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